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小説『人魚の眠る家』脳死判定の実施は臓器提供の意思次第という現実

更新日:2022年10月22日



 こんにちは、Dancing Shigekoです!


 今回は小説『人魚の眠る家』を紹介します!


[基本情報]

 著者:東野圭吾

 出版社:幻冬舎文庫

 出版年:2018年

 ページ数:469ページ


[登場人物]

播磨薫子

 本編の主人公。夫の浮気がきっかけで離婚を考えていたが、娘の水難事故がきっかけで離婚は白紙に戻される。

播磨和昌

 脳神経に関して研究する会社ハリマテクスの社長、薫子の夫。別居中。

播磨瑞穂

 薫子と和昌の娘。プールで事故に遭って、植物状態になる。

星野

 ハリマテクスの研究員。彼の研究している内容が和昌の目に留まる。

榎田

 薫子のクリニックの担当医であり、食事に出かける関係。

進藤

 脳神経外科医で瑞穂の担当医。

[内容]

 薫子は和昌と瑞穂の小学校受験の模擬面接に来ていた。ところが面接の直前に家族から電話がかかってくる。瑞穂がプールで溺れたと言う。急ぎ病院へ行く。治療を担当した進藤医師は脳死をしている可能性が高いと言い、臓器移植について打診される。

 その夜、薫子と和昌はどうするか考え、結論を出して翌日病院へ行く。身内も皆、最後のお別れを言いに病院へ集まった。そして薫子と和昌が最後に瑞穂にお別れを言った時に、瑞穂の手が動く。

 臓器移植を断り、治療を続ける。そして薫子、和昌らの瑞穂を見守る生活が始まるのだった。

[感想]

 目を覚ますか分からない娘と生活をする家族を描く作品。

・日本の臓器移植の仕組みに問題提起

 瑞穂がプールで溺れて意識を失ったのは小学校入学前のこと。当然、家族でもしもの時の臓器移植について話をするわけはなく、進藤医師から臓器移植の話をされても、結論は出せない。

 その中で、脳死判定をするのは、臓器移植する同意を得たあとだと言う。裏を返せば、臓器移植の意思を示さなければ、脳死判定はしないのだという。そして治療を続けるのだとか。

 自分の子供が意識がない状態になった時に、もしかしたら意識が戻るかもしれない。そう考えたら、臓器移植をするか、に対して結論を出すのは極めて困難なのではないか、と感じてしまう。実際に、この作品でも瑞穂の手が動いたことがきっかけで、薫子と和昌の思いは揺らいでしまう。

 さらに臓器移植に同意しない限り、脳死判定が行われないため、日本国内では小児の臓器移植で臓器を提供者が極めて少ないのだという。それゆえに、多額の費用を払って海外で臓器移植を受けることになるのだと。

 その辺りは日本の臓器移植に関する整備が不十分なのだと考えさせられる。臓器移植の意思有無に関係なく、脳死判定をするようにしたら、どんなにか、事態が違うことになるか。それだけ大胆な法案を作るのは、覚悟がいることなのだろうと思う。


・自分の子供のために狂うことができるのは母親だけ

 薫子は一連の出来事を振り返って、和昌に「自分の子供のために狂う事ができるのは母親だけなの。そして生人(二人の子供、瑞穂の弟)に何かあったら、私は迷わず狂う」と言う。

 この発言が母親の意思を代表しているように感じた。どんなに父親が子供のことを思っていたとしても、母親の愛情の深さは次元が違うものなのだと感じさせられる。

 その発言と、その後の薫子の対応を見ていると、ただただ感服。子供に対する愛情の深さが伝わってきた。


・東京・広尾に住む家族

 薫子たちは広尾の一軒家に住む。かなりの豪邸で、洋館のようだという描写があった。そんな描写を読んでいると広尾というのは高級住宅街なのだろうか、とイメージが出来上がっていく。東京の住宅街と言ったら、田園調布や自由が丘と思っていただけに新たな発見。

 どんな感じの場所なのか、実際に存在する屋敷をイメージした作品だったのか、と東京方面にいく機会があったら、散策してみたいと思った。

・子供は残酷

 瑞穂は寝たきりのまま3年近くが過ぎていた。生人も大きくなり、小学一年生になる。それまで生人はお姉ちゃんは寝ているだけだと信じていたのに、入学式で瑞穂を見た生人の同級生たちは、もう死んでいるんだろう、気持ち悪い、と揶揄されたという。

 この描写が実に生々しい。実際に子供だったらこういうことを言うだろうなぁと思ってしまう。そう言うことを言われることが想像できるだけに、自分だったら、きっと人前に連れていくことはしなかっただろうと想像する。

 しかし、薫子は違う。瑞穂はいつか目を覚ます、と言う思いから、普通に接する。その辺りの感覚は、周りから見たら、確かに狂っているように思われるのかもしれない。

 それはさておき、生人は「お姉ちゃんはもう死んでいるでしょ!」と叫んだのに対して薫子は生人を平手打ちする。しかし、その言葉がきっかけで多くのことが動き出す。

 子どもというのは実に純粋で、同時に残酷だと感じた。


・最新技術を駆使して治療

 瑞穂を在宅介護したい、薫子がそう思っていることを知っていた和昌は、何かできることがないものかと常に考えている。そんな折、会社の進捗報告会で自発呼吸をさせることのできる装置について知る。そしてその手術を瑞穂にもしようと提案する。

 さらには、筋力を維持するために、星野が研究している内容を活用して脊髄に直接磁界を与えて体を動かすことに成功する。そして瑞穂の体を動かしリハビリを続けるという。

 実際にはこういった技術はまだないのだろうけれど、世の中にはきっといろんな研究をしている人がいて、こう言ったことを実現する人も出てくるのだろうと想像が膨らむ。

 

 脳死とどのように向き合うかを考えさせられ、母親の子に対する深い愛情を感じる作品だった。


 読了日:2022年4月25日


 皆様の感想も是非お聞かせください!


 それでは、また次回!



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