小説『白い闇の獣』始まりは一人の少女の死ではなかった
- Dancing Shigeko
- 2023年7月1日
- 読了時間: 4分
更新日:2023年7月2日

こんにちは、Dancing Shigekoです!
今回は伊岡瞬作品 小説『白い闇の獣』を紹介します!
[基本情報]
著者:伊岡瞬
出版社:文春文庫
出版年:2022年
ページ数:441ページ
[登場人物]
滝沢俊彦
滝沢朋美の父親。広告政策会社に勤務している。
しっかり者という感じ。
滝沢由紀子
俊彦の妻。
やや怖い。
滝沢朋美
小学校を卒業したばかりの女の子。
小六卒業時点で150cmは背が高い方?
北原香織
朋美の6年生の担任。
本作品の中心人物。本仮屋ユイカさんのような印象が残る。
秋山満
フリーライター。少年犯罪の取材をしている。
冴えない感じが残る。
[内容]
滝原朋美が小学校を卒業した翌日、由紀子は朋美の誕生日兼卒業祝いのパーティの準備をしていた。俊彦は仕事で帰りが遅くなっていた。雨が降っていたため、朋美はバス停まで俊彦を迎えに出て行ったが、入れ違いで俊彦が帰ってくる。なかなか朋美が帰って来ず、探しに出るが結局、夜中探しても見つからず、翌日河川敷で死体となって見つかるのだった。
朋美を死に関わったとして3人の未成年が補導されるが、起訴されることなく、解放される。
四年後、当時、朋美の死に関わった3人のうち2人が連続して転落死するのだった。
[感想]
卒業したばかりの少女が殺され、その事件を追いかけた人たちを描く作品。
・中心人物は元担任とライター
最初の事件に関わっていた人物が滝原俊彦と由紀子。俊彦視点で語らえれている描写にも見え、中心人物は俊彦と勝手に思い込んでいた。
ところが、その後に登場する朋美の元担任 北原香織が中心になっていく。描写は事件が起きた年と、そこから4年が経った朋美の命日近辺の時系列で描かれ、4年後は北原香織が中心。彼女が気になって事件現場に足を運んだ時にいた、フリーライター秋山満がそこに加わってくると言う流れ。
朋美の死に関わった3人の少年のうちの二人が転落死。それが事故なのか、殺人なのか。殺人だとしたら犯人は誰か。その後、行方をくらましている俊彦か、と言った感じで、秋山が調査をしていくのを北原も同行しているという構図。
なぜ単なる元担任の北原香織がそこまでして事件の真相を探ろうとしているのか。その理由も徐々に描かれていく。
なるほど、だからこの人が中心人物なのだと、理解する展開に仕上がっている。
二人の死の真相が明らかになって、その後の顛末が描かれて、作品としては終わっていくのだけれど、実に濃い内容だった。
・少年法がもたらす不幸
この作品の論点は、少年法にあったように思う。
事件に巻き込まれた少女は小学校卒業したばかりの12歳。彼女を殺したのが15歳の3人組。この頃の少年法は16歳未満は刑事罰に問われないという。その結果、遺族には誰が殺したのかも公開されず、異議申し立てしたくても、民事訴訟しか手がない。そのためにも多額のお金がかかるという理不尽な世界観。
少年法は、彼らが更生して、大人になったら違う人生を送ってほしいという願いから、罰することよりもセカンドチャンスに重きを置いているもの。その発想は大事だと思う。しかし、人一人殺されていてもほとんど罪が問われないと言うのは、あまりにも理不尽で、納得性の低い対処。
遺族が家族の死でダメージを受け、犯人が処罰されないという事実にダメージを受ける。この二段構えの現状は、あまりにひどいと感じずにはいられなかった。
他の国の制度がどうなっているのか、少年法は今後どうなっていくのか、今後の事件がどのように対処されていくのか、といったことを気にするきっかけになる一冊だった。
・動機に隠されていたもの
事件そのもののに関わる少年法のあり方について疑問を提起しているのだと思いつつ、実は人間像にも、実に深い。
元担任の北原香織が事件に関心を示しているのはなぜか。
秋山がライターとして事件を調べているのがなぜか。
さらには犯人二人の死に関わった人物がそこまでしたのはなぜか。
など一つ一つが最後に一気につながっていって、人が行動を起こす理由というのは、この作品に描かれるような、贖罪の意識もあれば、恩返しの意識もあり、いろいろあるものだと思わされる。
人物像にも注目したい展開だった。
事件はそのものの題材は非常に重く、決して心がスッキリするものではないけれど、事件の調査をしていく様子やそこに隠されていた思いが明らかになっていく流れが非常に良かった一冊だった。
読了日:2023年6月29日
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それでは、また次回!
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