こんにちは、Dancing Shigekoです!
今回は東野圭吾作品 小説『手紙』を紹介します!
[基本情報]
著者:東野圭吾
出版社:文春文庫
出版年:2006年
ページ数:428ページ
[登場人物]
武島直貴
本作品の主人公。強盗殺人罪で服役中の兄を持つ。
受刑者がいるために苦難の道を進むことになる様子に理不尽さを感じながら、彼みたいな存在を差別なく生活できるようにできないものかと考えさせられる。
武島剛志
弟を大学に通わせたい一心で強盗を働く。誰もいないと思っていたところに住人が起きてきて殺害し、15年の刑に服す。
手紙を書く気持ち、そこにはどんな思いがあるのか。悔やみきれない思いと、これからどうしたらいいのか、という悩みと。一度の過ちが取り返しのつかないことになる典型と感じる。
白石由実子
直貴と同じ工場で勤めていた女性。関西出身で直貴に好意的。
彼女のように直貴の身内の状況を知っても、離れていかない存在が、他にもいてくれると信じたい。
[内容]
武島剛志は弟 直貴が大学に行けるようにお金を必要としていた。しかし腰を痛めて引越しの仕事もできなくなり、盗みをすることにした。過去に行ったことのあった緒方商店の屋敷を狙って、中に入る。誰もいないと思っていたが、その家の老婆が現れて、動揺した剛志は勢いで殺してしまった。懲役15年の実刑を受ける。
剛志の弟は、兄が受刑者だと知られて、高校で周りとの距離を感じ始める。そんな中、兄から手紙が月一回届くのだった。
[感想]
受刑者の兄を持つ弟の半生を描く作品。
<差別はあって然るべきもの>
・強盗殺人罪の兄を持つ直貴
直貴は兄 剛志が殺人で捕まって、最初のうちは兄を心配していた。しかし、周りの見る目がどんどん冷たくなっていくのを感じると、徐々に兄の存在を隠すようになる。高校生だった直貴。
独り身になってしまい、生活に困窮している。先生から紹介してもらったバイト先でも兄のことは秘密にしておけ、と言われ、黙っていた。それで幸い仕事をさせてもらっていたけれど、同級生が直貴の働くレストランにやってきたのがきっかけでその職場に兄が受刑者だと知れ渡る。そこからは徐々に周りの人たちの反応がよそよそしくなっていく。
そんな展開。結局、高校卒業前には辞めることになっていたのか。大学進学も諦めて、なんとかありついた新しい職場で仕事を続ける。なるべく人と関わらないようにと。それでも運悪く、兄が刑務所に入っていることが分かってしまうという流れが続く。
バンドに目覚めた時も、恋人ができた時も。そして社会人になって仕事を始めた時も。
その社会人になって電器屋で働くようになった時に社長から、差別はあるものだと言う。それを聞かされて、いかに自分が甘えていたのかと思い知らされるという流れ。
本人が犯罪を犯したわけではないのに、これだけの差別。実際の世の中ではどうなのか。やはり距離を作ろうとするものなのか。自分の周りにはそう言った人はいない?と思っている自分にとっては、想像し難い世界観。でも実際に、こういう差別は存在するのだろうなと思うと、寂しさが残る。
<諦めずについてきてくれる人もいる>
・関西出身の白石由実子
直貴が高校を卒業して働くようになった工場。通勤バスで直貴を見ている女性がいる。やがて食堂でも声をかけてくるようになる。突き放そうと、自分の兄は受刑者だと伝える。さらにその罪が強盗殺人罪だとも伝える。これで彼女は付きまとわないだろうと思っていたのに、有実子は離れていくどころか、全くお構いなしに、直貴につきまとう。
バーでバイトを始めるとそこに姿を見せたり、寮の部屋にやってきたり。直貴がバンドを始めたと聞いたら、早速、ライブを見にきてくれたり。こんなにも好意的な女性が身近にいるのに、直貴は邪険にするのだから、ダメな感じ。
直貴にお金持ちの令嬢の恋人ができても全面的に応援してくれる由実子。彼女の存在はかなり大きなものだったと思う。
こういう人と出会うことができたのは直貴にとって運の良いことだったのだと思う。最終的に二人は結婚することになるのだけれど、由実子なしでは直貴は家族を持つこともできなかったのかも、と思うと大きな存在だった。
<時の流れが異なる>
・刑務所からの手紙
1ヶ月に1回剛志が手紙を書く。その手紙を最初のうちは直貴は剛志が元気なのを知って励みにしていた。ところが、ちょっとずつ、そののんびりとした口調に怒りを感じ始める。繰り返し世間から除け者にされていると、とうとう兄の存在を無かったものにと考えるようになる。手紙を一読すると破り捨てるようになっていく。
そんな直貴の心境を知らずに月1回の手紙を書くことを楽しみにしている感じの剛志。刑務所というのはどんな感じで時間が流れているのだろうか。娯楽施設があるわけでもなく、他の受刑者の中には改心することがないような人もいるだろう。
一体、どんな心境なのか。どんな風に時間が過ぎていくのか。今日は何をしよう?とか考えながらの生活なのだろうか。剛志の手紙を読んでいると、平和な感じにも受けて取れるし、一方で生きがいを探すのに苦労する場所、という感じもある。高い壁に囲まれた環境。
一つはっきりしていそうなのは、世捨て人になった感じは絶対的に存在していそうという部分だろうか。
お世話になることがないでいたいと思う場所だった。
強盗殺人罪の兄、そして弟、彼らの人生はその犯罪が起きた時点で大きく変わってしまっていたのだと、つくづく感じる作品だった。
読了日:2023年4月23日
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それでは、また次回!
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