Dancing Shigeko
小説『ブルータスの心臓』殺しの計画が横取りされた!

こんにちは、Dancing Shigekoです!
東野圭吾作品が続く。
今回は小説『ブルータスの心臓』を紹介します!
[基本情報]
著者:東野圭吾
出版社:光文社文庫
出版年:1993年
ページ数:362ページ
[登場人物]
末永拓也
本作品の中心人物。産業機器メーカーMM重工社員。研究開発二課所属。出世欲が強い。
ここまでゴリゴリ出世しようとする姿勢の人物に、自分の周りでは会ったことがない。
雨宮康子
MM重工役員室に配属。拓也は彼女と接点を持ち、そこから専務の仁科俊樹に近づこうとする。
水商売していたのかと思わせる対人折衝力。あまり信用してはいけないと思うのだけど?男はまんまと罠にハマるものなのか?
仁科星子
MM重工創設者の仁科慶一郎の息子・俊樹の次女。婿探しのために実家に帰ってきた。拓也は彼女を狙っている。
高ビーとはこのようなキャラを言うのだろうかなと思う。
仁科直樹
MM重工開発企画室長。俊樹の長男。
物腰柔らかい感じなのだけど…
[内容]
MM重工で勤める末永は出世のために役員室の雨宮康子に近づき、役員の動向を教えてもらっていた。末永の計画通り、次期社長と言われている仁科俊樹に実力をアピールすることに成功した末永は、俊樹の娘 星子の婿候補として声がかかった。
万事順調に思えたが、康子から妊娠したと告げられ、歯車が少しずつ狂い始める。邪魔になった康子をどうにかしたいと考えていたところに開発企画室長の仁科直樹が接触してくる。彼もまた康子と関係を持っていた人物。もう一人、星子の婿候補として挙がっていた橋本の三人で靖子を殺す計画を立てるのだった…
[感想]
出世の邪魔になった女性を何とかしようとしたためにおかしな事になった一人の人物の物語。
・自動化工場で起きた事故
プロローグで群馬の工場が描写される。
作業はロボットが行う全自動の工場。
人は管理する一人のみ。日中と夜とで二交代で管理者がアサインされている。
この日の夜間に担当していた高島勇二。ロボットが停止した信号を受けて様子を見にいく。すると搬送するロボットが隣のロボットへ搬送できておらず停止していた。
いつものことと思ってその異常を直そうとしていると、突如ロボットが動き出す。そして…
と言うプロローグ。この事故が一体どう言う意味だったのか、かなり後半になって明らかになっていく。
何かしら意味のあるプロローグなのだろうとは思っていたものの、本編の急ピッチの展開に、すっかり忘れてしまう。そんな忘れた頃に巧みに戻ってくるここでの出来事。
上手に繋げてきたと唸ってしまう展開だった。
・貧しかった境地から上を
末永は幼い頃に苦労して育つ。やっとのことで大学に入って、そしてMM重工に入社。
このチャンスを絶対にモノにしようと必死に勉強している。この頑張り方は、とても刺激になる。上に行くためにどうしたらいいかを考え、役員に自分の実力をアピールして行くことが近道だと考える。
運よく、役員室に配属になった女性・雨宮康子がいることを知り、彼女を利用する。仁科俊樹がどんな趣味で、どんな予定があるのか。そういったちょっとしたことを知ることで、そこにチャンスを見出そうとする。
この貪欲さは見習いたいところ。
自分の勤める会社でもこう言う風に上手に役員に近づいて、上に行った人たちがいるのだろうか、と考えてしまう。
こう言ったストーリーが出来上がると言うことは、少なからず、世の中に存在している話なのだろうと思うと、自分の知らない世界観があるモノだと感じずにはいられない。
・世間知らずのお嬢様を射止めるために
その働きかけが功を奏して、仁科俊樹の次女・星子がイギリスから戻ってきたとかで、彼女の婿探しを父親がし始める。当然、優秀な社員が婿になることを期待していて、その候補に末永も選ばれる。
星子はというと、典型的なお嬢様。じゃじゃ馬というか、おてんばというか、タカビーというか。いかにも、と言った感じが見て取れる。
出世のためとは言え、彼女との結婚を考えるあたりが徹底している。これまた想像できない世界観。社長令嬢というのがどんなモノなのかというもの、あまりイメージが湧かない。
実は身近なところにもいるのかもしれない?
手が焼けそうな感じで、話を合わせるのには苦労しそうというのが個人的な印象。
・障害を排除する
星子の心も射止められそうになってきて、極めて順調に見えた末永の出世。
ところが思わぬところで足元をすくわれる。
それは雨宮泰子が妊娠したという事実。彼女は堕ろすつもりはないと言って、末永にたかりそうな気配を見せる。役員室の事務員が妊娠したなどとスキャンダルを起こしたら、末永としては一貫のおしまい。
それで考えたのが雨宮康子の殺害。
本当にそこまでするものだろうか?出世の障害になってきたからといって、短絡的に人を殺そうと思うものなのだろうか。説得しようとは思わないのか。
この辺りの心境は到底想像できるものではない、と思う。
・予期せぬすり替わり
末永は運がいいのか、実は雨宮は他にも男と関係を持っていたことが発覚する。
彼が調べたのではなく、別の男性が彼女の行動を見ていた結果、三人と関係を持っていることを突き止めてくるのだけれど、そこから話は、三人で協力して彼女を殺そうということになる。
ここでも、殺すという手段にたどり着くあたりに短絡思考的なものを感じずにはいられない。
とは言え、これは小説の世界。この設定は許容するとして、彼らのとった作戦が興味深い。
自らに嫌疑がかかったときにアリバイがあるように三人で手分けして、死体を運ぶと言う。そしてトータルで全ての時間帯にアリバイがない状態の人がいないようにしようと言うもの。
奇抜なことを考えるものだと、本当に感心してしまう。
同時にこの発想を真似する人が現れたりするのではないだろうか、とも思ってしまう。
そして作戦決行の日、末永は運び屋2番手を任されるのだけれど、3番手に受け渡すときに予定外の死体が乗っていることに気づくという展開。この辺りから一体、何が起きたのか、と疑問の連続。どうやって死体が入れ替わったのか。
その死体は後日、警察に見つかって捜査が始まるのだけれど、捜査の状況と末永の動きとが交互に描写される。(正しくはもう一人女性が登場して、その女性も独自の行動をとっているのだけれど)
この三つの視点で物語が進んでいき、一体、何が起きたのかと言うのを一緒に考えて行くと言うのがこの作品の面白いところだったと思う。
・続く障害
また末永の行動。
結局、目的の雨宮康子を殺すことに失敗した彼は、彼女が依然邪魔な存在。
それで再び彼女を殺す計画を立て始めるという流れ。
本当に彼女を殺す必要があったのか、と思わずにはいられない。
・真相に近づくと… ※ネタバレご注意ください。
しかし、こう言った一連の流れも恐ろしいものの、どう見ても、この作品の主人公・末永にハッピーエンドはなさそうな気配。
三人で雨宮康子を殺そうとした計画に加担した時点で、もし見つかれば星子との結婚は実現しないだろうし、実際に康子にも手をかけてしまっているし。
最初の頃の出世のために頑張ってきた努力というものが一瞬にして崩れ去ろうとしている。そんな彼にどんな結末が待っているのか。
と思っていたら、最後の最後、衝撃的な結末だった。あまりにも意外な展開でありながら、そういう結末が一番落ち着くのかもしれないと感じずにはいられなかった。
どんなに自分にとって障害だと思っても殺人という手段だけはとってはいけないと感じる作品だった。
読了日:2023年5月29日
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それでは、また次回!