
こんにちは、Dancing Shigekoです!
今回は小説『パラレルワールド・ラブストーリー』を紹介します!
[基本情報]
著者:東野圭吾
出版社:講談社文庫
出版年:1998年
ページ数:449ページ
[登場人物]
敦賀崇史
バイテック社の研究員。リアリティ工学研究室で視聴覚認識システムの研究をしている。
三輪智彦
バイテック社の研究員。リアリティ工学研究室で記憶パッケージの研究をしている。足が不自由で引きずって歩く。
津野麻由子
バイテック社の研究員で敦賀、三輪の後輩。三輪の恋人であり、敦賀は学生の頃に電車の中で彼女を見かけていた。
[内容]
敦賀崇史は親友の三輪智彦に紹介された恋人 津野麻由子に戸惑う。麻由子は崇史が一年前、いつも乗っている電車と並走する電車に乗っていた女性だった。ずっと見つめていた女性が、今、目の前にいる。親友を祝福したい気持ちと、彼女に想いを伝えたい気持ちとの葛藤が始まるのだった。
[感想]
記憶とは何か?を考えさせられつつ、三角関係の末路が気になり続ける作品だった。
・二本立ての物語が進んでいく意味を考える
崇史が智彦に麻由子を紹介されて、戸惑った食事の場から始まったと思いきや、次の章では、麻由子との同棲生活が始まっているという展開。いきなりのギャップに何が起きているのか、という疑問と興味が湧く。
読み進めていくとSCENE○と区切られた物語では、智彦と麻由子が交際していて、崇史が嫉妬している。一方、特に見出しのない物語の方では、崇史がいろんな違和感を覚えていく展開。これまでに、なぜそんな大事なことを忘れていたのか、と自問自答する場面が頻繁に登場する。
この交互に展開される物語がどう関係しているのか、想像しながら、興味が途切れることなく読み進められる内容だった。
・脳の研究をしている三人
崇史と智彦、さらには麻由子は脳の研究をしている。その研究とこの二つの物語が関係しているのだと、薄々気づき始める流れになっている。どうやらどちらかが作られた過去なのではないか、そんな想像が湧いてくる展開。
ちょっとずつ核心に近づいていく。そこの先にどんな事実が隠されているのか。そのハラハラ感も面白かった。
・電車で見かけていた彼女
崇史が学生の頃、ずっと並走して走る電車に乗っている女性に目がいっていたと言う描写が一番最初にある。毎週、決まった曜日に電車に乗っているその女性を見かけることが密かな楽しみになっていたと言う。そして、卒業を迎えることになって、見かけることができる最後になったと思った崇史は、そっちの電車に乗ることを決心する。
ところが、彼女はいつもの場所にいなくて、代わりにいつも自分が乗っている電車の方の車両にいたという。
ここまでがプロローグで展開される。この二人の将来を暗示するかのようなオープニング。そして親友が連れてきた彼女こそが、その時に見かけていた女性だったと言うのだから、なんという皮肉。
崇史の胸中はいかに。崇史の心のうちが描写されるたびに、もどかしさが非常に伝わってくるようだった。隙あらば自分の恋人にしようと常に考えている崇史。同時に親友である智彦を裏切っているように感じていると言う。
そしてそんな崇史の思いに対して、智彦がどう感じていたのか、が語られる場面がある。その内容を見たときに、訪れるやり場のない思い。恋愛小説としても楽しめる内容。
・不思議なことが続く曖昧な世界
崇史が麻由子と同棲している世界。そこでは、たまにSCENEで語られている内容の過去を経験したことがあったような既視感に襲われる。親友だったはずの智彦が、アメリカ本社に転勤になったと言うことも忘れてしまっていると言う不思議な体験から始まり、麻由子が姿を消し、さらには崇史が知っている過去とは全く逆の過去を語る同僚やサークルの女友達の発言。この食い違った出来事が一体、何を意味しているのか。
さらに智彦の研究室にいた篠崎の行方を探ししているという直井雅美と言う女性が登場して、ますます謎めいていく。明らかに何かがある気配。しかし、その何かが決して、姿を見せないまま終盤までに行くのが面白い。
・二つの過去が存在するとき
自分の知っている過去と周囲の人たちが語る過去との間に食い違いがある。そんな時、どっちを信じたらいいのか。当然、自分の過去を信じるのだろうけれど、実際のところ、そういった食い違いがあったら、見極められるものだろうか。自分にまつわる過去はある程度、見極められるとして、友人・知人に関わることだったらどうだろう?
もしそういった過去を勘違いすることができるなら、自分だったらどんな過去を選んでいるだろうか。と言う想像を膨らませるもの楽しい一冊だった。
ミステリアスで、それでいて恋愛のもどかしさが実によく出ている一冊だった。
読了日:2022年3月16日
皆様の感想もぜひお聞かせください!
それでは、また次回!
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