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小説『サブマリン』命の重たさを考えさせられる

執筆者の写真: Dancing ShigekoDancing Shigeko

 こんにちは、Dancing Shigekoです!

 上田桃子選手は優勝に届かず。次に期待。


 今回は小説『サブマリン』を紹介します!


[基本情報]

 著者:伊坂幸太郎

 出版社:講談社文庫

 出版年:2019年

 ページ数:345ページ


[登場人物]

陣内

 家庭裁判所の調査官。思ったことを包み隠さずポンポン口に出していく。本気かふざけているのか、見分けのつかない発言が多い。


武藤

 家庭裁判所の調査官。陣内の後輩。


棚岡佑真

 無免許運転で歩道の通行人を轢いてしまった少年。10年前に車が突っ込んできて友人を亡くしている。


小山田俊

 武藤が担当する試験観察中の少年。脅迫文をあちこちにばら撒いた過去がある。ITに強く、ネットの書き込みなどの情報から悪事を働きそうな人が分かるという。


若林

 10年前に棚岡佑真がいるところに車を突っ込んでしまった青年。過去の事故を悔いていて、自分は生きていていいのか、疑問を感じている。救命士の資格を取得している。


永瀬

 陣内の古くからの友人。目が見えないが、音の変化から相手の行動が手に取るように分かる。盲導犬を地下鉄につれていったことが原因でトラブルに巻き込まれることもある。


[内容]

 家庭裁判所調査官である武藤は無免許運転で歩行者を轢いてしまった棚岡佑真の担当することになった。並行して小山田俊の試験観察も行っていた。

 武藤は棚岡佑真が事故を起こした背景を詳しく調べようとしていた。やがて、10年前の事故が関係している可能性を見つけ、当時の関係者にも話を聞いていく。

 ある時、小山田は埼玉で通り魔事件が起きると言う。武藤は先輩の陣内と相談して、指定された小学校で見守っていると刃物を持った男性が現れる。武藤と陣内はその男を取り押さえることに成功する。

 通り魔事件を防いだと言うことで、陣内を訪れてくる人が増える。その中に若林がいた。陣内は若林を食事に誘い、10年前の事故の話などをする。そして、棚岡佑真の事故との関係が明らかになっていくのだった。


[感想]

 無免許運転での交通事故を扱う家庭裁判所調査官 武藤と、陣内の少年たちと向き合う様子が描かれた作品。

・人の命について、多角的に問う

 10年前に若林が起こした交通事故。わき見運転で、誤って歩道に突っ込んでしまい小学生の命を奪ってしまう。

 その時に死亡した子と一緒にいた棚岡佑真が、無免許運転で同様に通行人を轢き殺してしまう。

 作品の中で、陣内が武藤にクイズを出す。「不注意で人を轢き殺してしまった人と、殺すつもりでいたけれども失敗する人とどっちが罪か。」さらに「不注意で人を轢き殺してしまった人と、殺すつもりで別の人を轢き殺してしまった人とどっちが罪か。」

 そして小山田俊の言葉。「棚岡佑真が轢いてしまったのは、これから事件(殺人)を起こす予定だった男だから、少しは気が楽になるのではないか。」

 最後に若林の言葉。「自分は生きていてよかったのだろうか。」

 いろんな角度から命について問われている。どんな事情であれ、はっきりしているのは「一度奪われた命は戻ってこない」ということ。このことも作品の中でよく出てくる表現。

 罪を償ったら生きていていいのか。そもそも命と等価の罪の償い方とは何か、そんなことを問われているようにも思う。そこに奪いたくて奪ったわけではないという背景の場合と、別の命を奪おうと思っていた場合とで、罪の重さを問われても、正直、答えはない。

 セカンドチャンスは与えられるべきと思いたい部分と、極悪人は罰せられるべきと思う部分と。この作品では極悪人は出てきていないように思うけれど、こう言った作品では悩み多い。

 果たして、どんな結末がハッピーなのか。一人の命が奪われていてハッピーエンドはないのかもしれない。とても難しい課題を問われている作品だった。


・いい加減で口先だけのようで、押さえる場所を押さえている陣内

 取り扱っている問題は非常に重たいのに、なぜか深刻感がないのもこの作品の特徴。その理由が「陣内」という人物の存在。相手のことなど構わずに思ったことをポンポン言う。その内容がやや突飛な感じもある。

 唐揚げで車のフロントガラスを拭くと割れる、などという聞くからに嘘っぽい内容を、常識のような口調で言い切るスタンス。そんな調子がずっと続く。そのため、命の尊さを問う真面目な内容にも関わらず、どこか軽い感じ、いい加減な感じが残る(いい意味で)。

 そんなめちゃくちゃキャラの陣内。根は加害者、被害者のことをしっかりと考えていて棚岡佑真と10年前に交わした約束を忘れているように見せて、実は覚えている。そして棚岡佑真の心を揺さぶる。

 その陣内の存在が、この作品の雰囲気を和らげているというのか、真面目なのか、不真面目なのかわからない独特の世界観が面白い。


・東京、埼玉、そして家裁

 舞台は東京、埼玉。そして家庭裁判所。東京から埼玉にパトロールのために足を運ぶ場面がある。自分にとって東京から埼玉は、近いのか、遠いのか距離感がいまいちないのだけれど、なぜかその距離を移動するものなのだ、と不思議な感じに襲われる。実際のところは通勤圏内なのだろうと思うのだろうか。埼玉といっても場所によるのだろう。

 そして印象的だったのは、陣内が家庭裁判所に入るときにいつも入館賞を忘れていて、セキュリティを通るのに苦戦している場面。家庭裁判所にはセキュリティがあるのだという発見。そしてドラマ『HERO』でもセキュリティを通っていたなと思い出す(あちらは地方裁判所だけれど、裁判所という意味では同じ)。

 裁判所というのは、物騒な人もやってくるということの表れなのだと改めて感じさせる。そんな環境で仕事をしていたら、陣内のように、飛んだ性格の人になっても不思議はないと納得してしまった。


 真面目な問題を取り上げつつ、決して重たくしすぎない物語の進め方が印象的な一冊だった。


 読了日:2021年11月13日


 皆様の感想もぜひお聞かせください!


 それでは、また次回!



 
 
 

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