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小説『ひとりぼっちの殺人鬼』何が彼女に殺しをさせたのか!?



 こんにちは、Dancing Shigekoです!


 今回は小説『ひとりぼっちの殺人鬼』を紹介します!

[基本情報]

 著者:櫻井千姫

 出版社:実業之日本社文庫

 出版年:2022年

 ページ数:397ページ


[登場人物]

大河内恵(めぐむと読む)

 小5の時に同級生で親友の江崎詩子を殺害する。桜浜小五女児殺害事件として語られる。事件後、児童自立支援施設に入る。

 加害者の心理とはこんなものなのだろうか。 

江崎昴

 被害にあった詩子の3歳離れた兄。事件当時、中学2年生。事件の第一発見者。

 被害者遺族の心境は人によってそれぞれなのだろうけど、こういった形もあるのだろうと思う。

磯野みちる

 桜浜小五女児殺害事件があった時に中学1年生。自分のできなかったことをやってのけた少女をめぐたんと崇めていた。

 事件の第三者だった彼女が、人生を捧げていく様子がすごい。


[内容]

 三浦半島の小さな町・桜浜で小五が同級生を殺す事件が発生した。加害者の大河内恵は事件後、児童自立支援施設に入れられる。

 被害者遺族になった江崎昴は、事件後、甲子園を目指すことも辞め、恵を恨み続けていた。

 事件当時、中1だった磯野みちるは、自分のできなかった殺人をやってのけた小5の少女をめぐたんと崇めて、彼女のイラストやグロテスクな小説をウェブにアップしていた。

 事件から時が流れ、3人はそれぞれの道を歩んでいくのだった。


[感想]

 小五が殺人事件を起こすという衝撃的な事件を題材に、事件に関わった人、事件を傍観していた人の視点を描いていく作品。

<訴えたかったもの>

・殺してみたかった

 小五で殺人。その心境はどんなものだったのか。警察の取り調べに人を殺してみたかった。殺しやすそうな詩子を選んだ。それだけしか答えない恵。そんな説明で遺族が納得するものなのか。

 事件は20年の月日が経った2024年に恵によって、当時の心境が語られるのだけれど、20年間、ずっと理由が曖昧のままにされていた遺族にしてみたら、すっきりしないものではないのか。

 もっともその理由を知ったところで、失われたものは戻ってこない。いかに気持ちを浄化するために、その理由を知っておきたい、という部分なのかもしれない。

 万が一、加害者になってしまった時に、きちんと事実は話すべきと感じてしまう。


・少年犯罪の裏には

 この作品、小五が殺人事件を起こすという衝撃的なもの。その背景がなんだったのか。この事件以降も、少年犯罪が頻繁に取り上げられている。そのたびに出てくるのが、親の愛情を感じられずに子供が育った結果、といった説明がされる。

 勉強しろだの、ああしろ、こうしろと命令ばっかりで、ちっとも自分をみてもらえない。そう感じた子供たちが、少しずつ心に闇を芽生えさせていく、という流れ。

 他人事ではないと感じてしまう。

 海外の映画ほと、子供に対して、「愛している」とは言わないものの、子供のことを常に気にかけているのは事実。気にかけた結果、もっとこうであってほしいと思う親の気持ちと、それを自分が嫌われていると捉える子供たちとのギャップ。そのギャップに気づかず、いつまでも同じように接していたら、最悪の結末を招く、そんなことを暗示しているようで、非常に考えさせられるものだった。


<それぞれの人生>

・無かったことにして過ごす恵

 そんな事件を起こした恵。

 さて、小五だったら許されていいのか?というのも問題提起されていたように思う。恵は名前を下田恵(めぐみ)に変えて、その後、普通に大学に通い、臨床心理士になって、社会人になり、大学の同期と結婚、さらに子供を産んで幸せな家族を築こうとしていた。

 過去の過ちは許されるべき、とも考える。ただそのためには、隠すのではなく、その事実も公表する必要があるようにも思う。その事実を知っていてもらった上で、今の自分を見て、その行動を見て判断されるのが筋?と思う部分もある。

 正直、自分が実際にそういった過去を持つ人物とあったら、どう思うかはわからないというのもある。また同時にもし、自分が人を殺めてしまったら、同じようにするのかも?もうこの歳で殺人をしたら、真っ当な人生を生きようとは思わないかもしれない。

 小説とはいえ、考えさせられる部分。非常に重い。


・切り離すことのできない昴

 一方、被害者遺族になった昴。中2で経験してしまった身内の不幸。第一発見者となり、それが妹だったとなったら、やはり心の傷は大きいように思う。前向きに生きろって言われても、常について回るように思う。

 こういった被害者遺族の心を癒す方法というのはないものなのか。そしてその被害者遺族の心境というのが非常に伝わってくる。

 昴の父親は恵のことを許していたけれど、昴はそのことも納得が行っていない。殺人がもたらす影響は尋常ではないのだと感じる。

 極めて当たり前のこととは言え、こうして人生の半分以上を、大事な時期を後ろ向きに過ごしてしまう人のことを考えると、少しでも世の中から少年犯罪を減らす環境づくりが大切と感じる。


・再発させたくないと考えるみちる

 事件の傍観者だったみちるがそういった役割を果たそうとする。最初はメグたんと崇めていたものの、歳を重ねるにつれて、同じようなことを起こしてはいけないという気持ちに変わっていき、新聞社に就職し、最終的にはジャーナリストになり、事件について出版したいとなる。

 一人のできることには限りがあるものの、事実を伝え、その事件がもたらしたものを知ってもらうことで、第二の事件を防ごうとする取り組みは、共感。

 自分自身が事件を起こさないようにするのと同時に、事件が起きてしまった理由を探ることで再発防止につなげていこうとする。言葉の力を信じて行動を起こす。

 そんな言葉で人の心を前向きに変えていくような働きを自分もできたら、と感じた。

<首都圏で>

・静かな町 桜浜

 事件は三浦半島の小さな町。描写では何もない町。遊びといったら、お金のかからなセックスに走るのが高校生、的な描写があるほど。こういった小さな町で事件が起きたら、瞬く間に情報は伝播していくのだろうって思ってしまう。住みづらくなるのだろうと思う。

 こういったどこにでもありそうな町を舞台にしているところに、他人事ではない身近さがあって、怖さを感じた。


・桜浜の人たちが訪れる横須賀

 そして興味深かったのは、桜浜の人たちからすると横須賀は都会という表現。自分自身は横須賀に行ったことはないから、なんとも言えない。ただ以前は横須賀行きの快速に乗って生活をしていたので、遠いようで身近な響きの土地。

 駅の行き先名になるくらいの場所だから、やはり都会と感じる場所なのだろう、と桜浜の人たちの表現を見ていたら感じた。

 一度、訪れてみたいと感じた。


 小五による殺人事件から、子供との接し方を考えさせられる作品だった。

 読了日:2022年12月29日


 皆様の感想もぜひお聞かせください!


 それでは、また次回!



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