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執筆者の写真Dancing Shigeko

小説『だから殺せなかった』罪とは何かを問う



 こんにちは、Dancing Shigekoです!


 原油高が進んでいる。ガソリンも高くなっていく。燃料自動車へのシフトが急がれる。


 さて、今回は小説『だから殺せなかった』を紹介します!


[基本情報]

 著者:一本木透

 出版社:東京創元社

 出版年:2019年

 ページ数:288ページ

[登場人物]

一本木透

 太陽新聞の記者。連続殺人犯から挑戦を受ける。


江原陽一郎

 両親と三角山に出かけるのが習慣の一般家庭の青年。大学生。


吉村隆一

 太陽新聞 編集担当兼営業統括の取締役。前橋支局時代の一本木の上司。

牛島正之

 警察庁長官官房審議官(刑事局担当)。二十年前群馬県警捜査二課長時代に一本木とネットワークを作る。一本木にとってのディープスロート。


[内容]

 神奈川、埼玉、東京で殺人が起きた。全く関係がないように見えたその事件が連続殺人事件に発展していく。

 太陽新聞の記者 一本木透は過去の自分と恋人の白石真琴の間に起きた出来事を赤裸々に語り、記者の慟哭を記事にしていた。その記事を読んだ連続殺人犯は、自らをワクチンと名乗り、一本木に手紙を送ってきた。

 その内容は、自分の行ってきた殺人について詳細を語るから、それを紙面に載せよと。そして自分のことを一本木の言葉の力で改心させてみよというものだった。一本木はその挑発に応じる。そして徐々にワクチンの正体に近づいていこうとするのだった。


[感想]

 ジャーナリズムの光と影を描いた作品。

・新聞記事の先に存在しているもう一つの物語

 新聞記事が出来上がっていくまでのいろんな人への取材、そして記事にするタイミングの計り方など、記事を出すまでの苦労が滲み出ている描写のこの作品。実は、記事を書くまでの苦労以外に、記事を出した後にも人間関係への影響があることが描かれていたのが印象的。

 一本木と琴美の関係。長く続きそうに思えたその二人の関係は、一つのスクープ記事によって崩れ去ってしまう。その行き着いた先は最悪の結末。記事によって新聞社はスクープを手に入れ、一人の人物がどん底へと突き落とされる。その一人の人物が、記者と関係が強かった場合、正しく記事を世の中に出せるのか。

 そう言った葛藤が非常に伝わってきた。


・ワクチンという人物

 連続殺人を犯しながら、自分よりも罪な人々がいるのではないかと問うワクチン。誰かが倒れても見向きもしない。その人たちと自分とでどれだけ差があるのかと問う姿勢。事件の詳細を明らかにせず、国民に身の危険を伝え切らないジャーナリズムに対する批判など、実にいろんな角度からメッセージを送ってきていたワクチン。自分のイメージしていたワクチンと、実際のワクチンとでだいぶギャップがあった。最後まで誰なのかと集中して読み続けることができた。


・新聞社での活動は目まぐるしい

 事件の被害者の家族の家近辺の描写も多くあったものの、特に印象に残ったのは新聞社内での活動の様子。巨大な輪転機へデータを流し込むために、至る所で声を掛け合っている様子、頻繁に情報が更新されていく様子、限られた時間の中で記事を作り上げていくスピード感、そして夜通し作業が続く不夜城の感じ、新聞社で働く方々の様子が目に浮かぶようだった。

 特に興味深かったのは金魚鉢と呼ばれるアクリル板で仕切られた打ち合わせスペース。そこに編集長が集まって議論される様子など、自分の知らない世界を体験できて面白かった。


・一番印象に残ったのは…

 ワクチンと一本木が新聞の紙面で対話をする。そのやり取りの文章。お互いに自信に満ち溢れた様子が出ている言葉遣い。その一つ一つのやりとりは、とても印象的。彼らの記事を読むたびに、よくこんなに饒舌に話をできるものだと思い、それに対して断言していく一本木のスタンスにただただ感心してしまう展開だった。


・自分ならその時…

 自分が陽一郎だったら、最後の場面できっと自分自身でも確かめてみようと思ったのではなかろうか。そのために相手の何か適当なものを拝借したのではないかな、と思う流れ。

 実際のところ、どちらが事実だったのか。多分終わり方から想像すると、こっちが真実だったのだろうと思いつつも、最後まで想像させる内容は、憎い演出だと感じた。

 殺人を通じて語られる人間性に考えさせられる作品だった。


 読了日:2022年3月2日


 皆様の感想もぜひお聞かせください!


 それでは、また次回!



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