こんにちは、Dancing Shigekoです!
今回は東野圭吾作品 小説『さまよう刃』を紹介します!
[基本情報]
著者:東野圭吾
出版社:角川文庫
出版年:2008年
ページ数:499ページ
[登場人物]
長峰重樹
一人娘・絵摩を殺され生きる気力を失い始めていた時に犯人と遭遇。復讐を果たそうと動き始める。
至って冷静な感じの男性に見えたのだけれど、それだけに事件の与えた影響は大きいということだと感じる。
スガノカイジ
不良少年のリーダー格。長峰に狙われている。
未成年なら何をしてもいいのか?と思わせる存在。
中井誠
不良少年グループの下っ端。カイジにいいように利用されている。
仲間の仕返しが怖い、と思って言いなりになってしまうのは、この年頃の辿る道なのだろうか。
久塚・真野・織部
城東署の刑事。久塚を班長に、真野と若手の織部が捜査に出る。
久塚を班長に真野、織部が地道な捜査。地味なチームだけれど、結果を確実に残していく。警察とはこう言うものなのかなと思わせる。
丹沢和佳子
蓼科のペンション『クレセント』で働く女性。
過去を吹っ切れていない女性、と言う位置付けで登場したと思ったら、かなり重要な存在になっていく。そのギャップに驚き。
[内容]
花火大会の帰り、長峰絵摩はカイジ、アツヤ、誠の3人に拘束されて連れされる。数日後、彼女は荒川で死体となって発見される。
父親の長峰重樹は一人娘を失い、怒りの咆哮を上げていた。警察に犯人逮捕を願っていた。しかし、警察からは情報がほとんど聞こえてこない。犯人が何者なのか、どんな処罰をされるのか全く分からず、仕事にも身が入らずにいたところ、何者からか、犯人の一人の住所が密告される。
長峰はその住所を訪れる。そこで見たのは娘が蹂躙される様子を収めたビデオ。部屋に戻ってきたアツヤを長峰は惨殺して、もう一人の犯人も探して復讐することを誓うのだった。
[感想]
娘を殺された父親が復讐を狙う作品。
・少年法の壁
先日読み終わった小説『白い闇の獣』に続いて、偶然にも少年法が関係する作品。構図も非常に似ていて、娘に暴力をされ命まで奪われた父親が、少年法の現実を知って絶望に陥る、と言う感じ。
悪いことをしていても、ほとんど罰せられない、と言う未成年犯罪。更生を目的としているため、被害者遺族の心境は軽視されているように見える。
この作品では刑事の心境も複雑に描かれている。誰のための正義なのかと。
警察の思い、娘を殺された長峰の思い、彼の手紙の内容を聞いた周辺の人たちの思い、同じように娘が自殺に追い込まれた父親の思い、全体的に理不尽な世の中に対する叫びのようなものが感じられる展開だった。
・被害者の心境
印象的だった場面がある。
長峰重樹が娘の帰りを待っている。しかし戻ってこない。そして数日後、警察から電話があって、警察に向かうとそこに死体となった娘が横たわっている。本人確認のために顔を見せられた長峰。その時の様子がとにかく恐ろしい。この世のものとは思えない咆哮というか、雄叫びのような嘆きの声が発せられたというのが描かれる。
さらに鮎村。娘が自殺したという男性。彼にスガノカイジの悪事の被害者なのかを確認してもらうためにビデオを見せられる。そこに映っていた娘の姿を見て、鮎村もまた咆哮を上げる。とにかく憎悪に満ち溢れた怒りの声が響き渡る。何事か、と思った刑事たちが会議室の方へやってくる。
そんな描写がされている。大事な一人娘が変わり果てた様子で戻ってきたり、弄ばれる様子を見せられた父親。その心境がとにかくよく描かれていた。
小説だから、と言うわけではなさそうな描写。そんな経験はしたくない、ただそう感じてしまう場面。そして世の中のニュースの見え方が変わった。
・助けようと思う人々
久塚班の若手刑事織部。犯人が未成年だと刑が軽くなる。だからと言って、捜査しなくていいのかと言ったらそうではない。そんな心境の中で、長峰が娘を殺した犯人の一人を惨殺する。もう一人も狙うかもしれないから、と今度は保護するために長峰を探す捜査に切り替わる。ところが殺されたアツヤと追われているスガノカイジの悪事が明るみに出ると、一体、何のためにスガノを追っているのか、と疑問を感じずにはいられなくなる織部。本心は、長峰に復讐をさせてやりたいと思っている。
長峰が全国に指名手配される。その長峰はペンションに宿泊する。そこで働いていた和佳子が、どこかで見覚えがあると気づき、長峰だと分かる。本来ならば、警察に突き出すべきところを和佳子はそれができない。警察の捜査の彼女のペンションに伸びてきても知らないと言って通してしまう。それどころかスガノを探すのを手伝うほど。
殺人は許されてはいけない行為、と頭では分かっていても、それをせずにはいられない心境に追い込まれた人物を目の当たりにした時に、殺人をしてはいけないという道徳と、娘のための復讐とどちらが正しい行動なのか。
そんな問いが聞こえてくる。人が人を裁くことは、立場の違いでどうにでもなるというのが伝わってくる。自分だったらどっち側についていただろうか。
結末は法律を優先するような感じに思えたけれど、果たしてどうだったらハッピーエンドだったのか。実に考えさせられる作品だった。
読了日:2023年7月10日
皆様の感想もぜひお聞かせください!
それでは、また次回!
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